スギの学名は Cryptomeria japonica クリプトメリア ジャポニカ。
その語意は「隠された日本の財産」です。
確かに隠れていたのですが、その素晴らしい効能が徐々にわかってきました。

特に高度に文明化されたからこその現代人にとって、様々な恩恵があることがわかってきたのです。

杉の恩恵

杉からのパッシブ(受動的)な恩恵

恩恵の例①
杉は樹木の中でも肺活量が大きく、とても大量の「呼吸」をします。
その呼吸の過程で湿気を吸放出するので「調湿」作用があります。

湿度が50%あればインフルエンザウイルスの97%は死滅します。
湿度が80%を超えるとカビ菌やダニが活性化します。

下向きの矢印

杉によってウイルスが少なくて、カビ菌が繁殖しずらい環境に

恩恵の例②
湿度が70%を超えると体温を下げる効果の無い「無効発汗」が増加します。

その結果いくら汗をかいても体温が下がらずに「熱中症」などを引き起こす危険度が高くなります。
「熱中症」は温度より湿度が重要なのです。

下向きの矢印

杉によって「熱中症」になりづらい住まいに

杉からのアクティブ(主体的な)恩恵

有害化学物質の吸着・固定化

ぜん息などの呼吸器系疾患の主因とされるNO2(=二酸化窒素)を70%~90%吸着してその体内に固定化してくれます。
その他、ホルムアルデヒドやオゾンなどの有害化学物質も吸着してくれる事がわかっています。

杉の体内においてリグニンはNO2を硝酸、亜鉛酸として吸着固定化。
ポリフェノールは酸素に還元して除去してくれます。

その他、大気中に含まれるPM2.5(これらは有害な重金属類)や各種屋内の有害化学物質を含む劣悪な屋内空気質の浄化をしてくれている事がわかってきました。

恩恵物質の放出

スギの恩恵物質放出イメージ

杉の赤身部を中心とした甘い芳香は、脳と自律神経に直接作用して鎮静・リラックス効果があるという報告が森林総合研究所から発表されています。

(一社)「適材適所の会」の調べによると杉の芳香の支持率は97%を示していて、これだけの支持率の香水はこの世に存在しません。
まさに我々と木との結びつき…そして日本固有種の杉と日本人の深い結びつきを示唆しています。

最近ではセドロールなどの恩恵物質の放出も明らかにされていますから、それらの恩恵物質を吸引しつつ、芳香を心地よいと感じながら、自律神経の安定と血管が拡帳を得た為、交感神経の過緊張が解除されて睡眠障害が改善されたのではないか。
…など、その恩恵が徐々に明らかになってきています。

さらに詳しくスギの効能4つに分けて解説

  1. 空気清浄材であるということ(危険な物質を取り除いてくれること)
  2. 加湿・除湿の調湿材であるということ(環境の変化をおさえて体調をサポート)
  3. 恩恵物質の放出をしてくれる材であるということ
  4. 上記の効能を一切のエネルギーを使わずに、スイッチも入れずに持続するということ
  5. その他…これらの各種の恩恵はどんなスギでも得られるのか?

1)スギは空気清浄材

スギはたくさん呼吸してくれます

NO2(二酸化窒素)を外気よりも70~90%減少させることがわかってきました。

NO2とは、せき・たんの有症率との関連や急性呼吸器疾患の増加などが指摘されている有害物質で、水に溶解しにくく吸引時の苦痛があまり烈しくないので、肺深部にまで容易に達しやすい、はなはだ危険な物質です。

その他ホルムアルデヒドやオゾンなどの有害物質も吸収してくれることがわかっています。

森林には大気浄化作用機能がある事が知られていますが、木材にもそれはあって、特に我が国固有種のスギはその浄化作用が高いのです。

これらの恩恵は、残念ながらNO2が高濃度地域である都市部における屋内空気の環境改善にスギはとても役立つことを示しています。

都市部の住環境だからこそスギが必要になってくるのです。

2)加湿・除湿の調湿材

スギ製の唐櫃(カラビツ)
スギ製の唐櫃(カラビツ)

正倉院の宝物が1300年もの間、朽ちもせず今日に伝えられている例は世界的にも珍しく驚くべき事ですが、それを可能にしたのは有名な桧の「校倉造り」と伝えられていますが、実はそれだけでなくやはり「スギの高い調湿作用」であることがわかってきました。

平成11年~12年に「正倉の温湿度環境調査」がおこなわれましたが、桧づくりの正倉院内部よりも更に宝物が入っているスギ製の唐櫃(カラビツ)内部の温度湿度が、スギの持つ調温作用・調湿作用によって外気より変動幅が小さく緩やかであったことが報告されています。

この調査の「まとめ」の文末には「特に唐櫃(スギ製)内の湿度変化は日変化で言えば非常に緩やかでしかも僅かである。

このことは木工品・漆工品など急激な湿度変動を嫌う宝物の保存にとっては非常に有利であったと考えられる。」とその高いスギの調湿作用の効果を記して終わっています。

スギの木材の実質はわずか1/3で、その70%が空洞でして、そこが湿度を貯えるタンクになっていて加湿と除湿をしてくれます。

この湿度の話は「杉のリノベーション」の所でももう少し詳しく書きます。

3)恩恵物質(セドロールなど)の放出

スギの恩恵物質放出イメージ

スギの「甘い豊かな芳香」は脳と自律神経に直接作用して鎮静・リラックス効果があるという報告が森林総合研究所によってされています。

逆に桧は覚醒効果があります。
ということは寝室やベッドの素材にヒノキは不向きなのですが、「檜舞台」ではありませんが舞台には確かにむいていますね。

その原因物質が、この度京都大学「生存圏研究所」の川井秀一教授より明らかにされました。

スギからは各種のわれわれにとっての恩恵物質が放出されていることが発表されたのです(2012年10月6日きれいな空気は子供を変える!「スギのものすごいパワー」を学ぶセミナー 港区エコプラザ)。

その樹脂に含まれる漢方物質が空気中に出てきていて、その成分としては…

  • 天然セキステルペン類(頭がすっきりして健康や学力アップ)
  • セドロール(副交感神経を高め、血圧低下、心拍数減少など鎮静効果あり)
  • サイトカイン活性(炎症反応、免疫応答の調節アポトーシス誘導、造血、成長因子として作用)

を含むことが明らかになりつつあります(同セミナー資料より)。

スギの恩恵物質が各方面で

更には大阪の ホームアイ の藤田小枝子氏が広めてらっしゃいます「スギ木口スリット材“できすぎくん”」の効果事例では、実際に大阪府環境農林水産総合研究所の研究により「スギ木口スリット材」を置いた屋内にてセドロールが検出された事などが「木育情報ネット」の濱口美紀氏より報告されました。

おそらくは数十…の恩恵物質がスギの芳香にはあるのでしょうが、現在の科学ではセドロールなどのひとつの物質が存在するか?はわかっても、数十は存在するであろう…我々に恩恵のある物質の検出と特定まではできませんので、川井先生、藤田氏とそのグループの方々の長きにわたる粘り強い研究にはまったく敬服いたします。素晴らしいです。スギになり変わりまして感謝の気持ちで一杯です。

過去の事例におきまして「なかなか眠れない人が眠れたり」(「質の高い睡眠」に関しては「杉のリノベーション」で記しています)、「夜間多尿が消失したり」、「いびきをかかなくなったり」…というような事例があったのですが、これらはこういう恩恵物質のお陰であったのですね…ということが分かってきたのです。

4)上記の様々な恩恵が、エネルギーを一切使用せずにスイッチの入れ忘れもなく、屋内においては半永久的に「スギの効能」がいただけるという事

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いくら「良い効能」でも大量の電気代がかかったり、高価な錠剤を購入して飲まなければならないようなランニングコストがかかるのであれば、そこの差し引きも留意しながら選択していかなければなりません。

けれどもこれらの「スギの効能」はまったくランニングコスト&エネルギーを必要とせずに、ほぼイニシャルコストのみで、たいしたメンテナンスも必要とせずに得られるのです。

5)これらの多様な恩恵はどんなスギでも得られるのでしょうか?

前出の川井先生はおっしゃっています。「トレーサビリティの確認が重要です。」

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  • 産地
  • 樹齢
  • 部位
  • 乾燥方法と乾燥温度
  • 加工
  • 管理状態

などです。

同じスギの丸太からとった板でもその効能は大きく違うのです。

東京大学名誉教授の谷田貝光克教授も、著書「植物の香りと生物活性」(フレグランスジャーナル社)でこう述べています。

「抽出成分量が高いと腐朽しにくいということは、丸太の心材、辺材の腐りやすさの差からも理解できる。木材を輪切りにしてその断面を見た時に、樹皮に近い周囲の色の薄い部分が辺材、その内側の色の濃い部分が心材である。

辺材は白太、心材は赤身(あかみ)と呼ばれる。その色の濃さの違いは抽出成分含量の差による。色の基ともなっている抽出成分の含量が高い心材は色が濃く、同時に耐朽性も高い~辺材では抽出成分含量が少なく、辺材と心材の境目で最も多く、中心にいくにつれて減少していく。

抽出成分の一部である精油の含量も心材のほうが辺材よりも高く、その比は3:1から10:1ほどになり、においも心材の方が強く、辺材にはほとんどにおいが無いか、あっても薄い。」

これはゆで卵にたとえると…黄身のほうが白身より精油分が豊富なんだが、更にはその黄身の中でも内側に行くとだんだん精油分が少なくなって、黄身の外側の方が最も精油分が豊富なトロみたいな部位ですよ。同じ黄身でも色の濃い黄身の方が抽出成分も豊富ですよ。
…みたいな感じでしょうか。

同じ赤身でも色も濃さも違います
同じ赤身でも色も濃さも違います

そして私たち木のプロが考えるのは産地によっての精油分の差ももちろんありますが産地さえ同じならみんな同じかというと、そんなことはありません。

ある程度の目安にはなるけど、大きく違うことも珍しくありません。
それより目安になるのは「成長の遅い木~高樹齢の木」ほど精油分が豊富=豊かな芳香=各種の恩恵ということでしょうか。

同じスギの木からとれた板でも大きく効能は違う事と、それぞれのスギが持つ個体差によって効能が大きく変わる事を覚えておいてください。

そして、川井先生がスギの乾燥方法と温度についても重要とお話されているのが興味深いです。これはまったく同感です。今お話したスギの木1本1本が持つ抽出成分含量だとか精油分の量はそれぞれ違うのですが、これを私たちはもともと持っている「素質」みたいなものだと考えています。

精油分が豊富なスギに「乾燥方法」がプラスされる

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「素質」だけでは「結果」はでませんよね。木材にとって「乾燥方法」とは「努力」みたいなものだと考えています。木材にとって、乾燥方法はそれほど重要なんです。その全て!と言ってもいいくらいです。

どんなに抽出成分含量が豊富なスギの赤身部外側のトロの部位でも、高温で人工乾燥させてしまうと、その大切な精油分が流出してしまいます。台無しです。せっかくの素質を流出させしまうんですからね(このへんの乾燥方法に関しては「尾鷲香杉」の項でもう少し詳しく書きます)。匂いのしないスギになってしまいます。

ですから、そんじょそこらのスギならなんでもいいわけではないのです。非常に例えは悪いのですが、人間とはかくも素晴らしきなれど、人は全て素晴らしきとならないかのごとしです。スギが悪いわけではないのですが、これらの効果の薄いスギも多く流通しているという事です。ご注意ください。

【黒芯 (くろしん)】赤身が黒い杉のこと、耐候性(たいこうせい)抜群も乾燥が全然進まない。【赤身 (あかみ)】心材部、節が多い、樹芯部は「割れる・反る」、耐久性高い、乾燥しづらい。【白太 (しらた)】外側の辺材部、節は少ない、耐久性劣る、乾燥は容易。【源平 (げんぺい)】赤身部と白太部が混在する部分

「みんな杉不足!」劣悪な屋内空気質には百年杉!

劣悪な屋内空気質(Indoor Air Quality=IAQ)は子どもの集中力・計算力・記憶力に影響を与える。

(アメリカ環境保護庁 2000年)

現代生活において、人々は90%以上の時間を屋内で費やす。我々は空気中に存在するあらゆる汚染物質に食糧と同様に考慮しなければならない。建材・接着剤・ペンキ家具やその他のものは空気汚染の代表的な原因である。

(世界保健機構WHO「健康な屋内空気宣言」2000年)

屋内からは数百の揮発性化合物が検出され、中には有毒性や発ガン性、突然変異を引き起こす性質を持つものもある。例えば欧州のぜん息患者の20%は屋内で吸入した物質によるものとされている。

(EU共同調査センターJRC)

なぜ、子ども部屋や寝室に杉を使わないのでしょうか?

杉はぜん息などの呼吸系疾病の主因たる二酸化窒素(NO2)を70%~90%減らします…。

(大阪府環境情報センター 2004年)

杉の芳香は自律神経と脳に直接作用して鎮静効果を与えている。

(森林総合研究所 1998年)

杉で夜間多尿が消失 切り札は低温乾燥
「精油分豊富な杉の鎮静効果でリラックス状態(自律神経の安定・血管拡張)を得たため交感神経の過緊張が解除され、睡眠障害が改善…。」

(林材新聞 2010年)

杉は薬ではないけれど、空気を浄化してくれて、さらに恩恵物質も放出してくれます。杉によって子どもも私たちも、もっと元気になれます。もっと質の高い睡眠がとれて元気になれます。そして遅成長高樹齢の杉 × 低温乾燥の杉はその効果が高いと思われます。

(EVERY DAY 加藤木材 代表取締役 加藤政実)

最後に….

スギの恩恵を生活に結び付け、心地良い空間で過ごしていただけたら…

冒頭でお話したように、花粉症の例を持ち出すまでもなく、スギは人気の樹種とは言えない現状です。けれどもスギは自らその生息数を増やしてきたのではなく、やがて復興に必要になるであろう、戦後のハゲ山の状況下に先人が命がけで植えてくださった樹種です。

わたしたち人間が増やした木なのです。それがようやく収穫期を迎えた今なのですが、「外国の木の方が安いから…」「木じゃなくてもいいから…」といってさっぱり使われずに、やっかいもの扱いされています。

しかし、実は列挙の通り、効率優先のストレス社会の現代人にとっては実にありがたい素材であることがわかってきたのです。

ようやくその語意の「隠された日本の財産」が「知られし日本の財産」になる日がやってきたのです。
ほぼ日本中に存在するスギが「日本の財産」として都市部で活用されて、地方に「日本の財産」相当の対価が還って、地方の活性化と森林の再生につながる日を切望しつつ…