『百年杉』の専門会社 加藤木材
【百年杉】の加藤木材 代表取締役 加藤政実
加藤政実:(有)加藤木材…いわゆる百年杉の加藤木材 代表取締役
木の香睡眠研究家。1964年生まれ。高校を卒業後、木材製品市場に住み込みで修行。北海道から九州までの日本の木を毎日担ぎ経験を積む。全国の多様な杉を見て触れて目利きを養い、現在は最高品質の百年杉しか扱わないという経歴により、個体差の激しい杉の「目利き」として存在感を放つ。百年杉を取り入れた建築や百年杉を使った家具しかやらないという旧来の縦割りである…木材流通…建築屋…家具屋でもない素材横断業務の【百年杉屋】の代表である。
はり・きゅう治療院 杉の子堂
小倉洋子:はり・きゅう治療院 杉の子堂 院長。東京大学医学部附属病院勤務。
東京女子体育大学卒業。はり師・きゅう師の国家資格取得後、東京大学医学部附属病院研修課程入所。はり・きゅう 治療院 杉の子堂 開院後、同大学附属病院リハビリテーション部物理療法部門(女性科専門)にて診療にあたっている。現代医療鍼灸臨床研究会(JSMAMR)評議員。全日本鍼灸学会(JSAM)会員、性と健康を考える女性専門家の会(Women’s Wellbeing)会員

触れる~肌と脳~

対談1「触れる~肌と脳~」

ヒノキで儲けてスギ御殿(ごてん)!

加藤: 小倉先生とはもう10年以上お付き合いさせていただいているでしょうか。私のような「杉バカ男」が本当のバカで終わらなかったのは先生のお陰です(笑顔)。感謝しています。

小倉: こちらこそ、患者さんの「困った」を、実際に商品化していただいたり、とても有難いご協力をいただいて感謝しています。

加藤: 私は木のプロとして【百年杉】を探求してきました。小倉先生と出会うまでは、「からだのしくみ」などは無知に等しかった。わたしたちの住空間にとって、とても大切な木についてはよく知っていても、「自分のからだ」のことが全然わからない…そんなわたしに粘り強く、からだのしくみや生理的ないとなみ、必要な本の紹介…その後の私の質問に対しての答え…そしてまた新たな情報…と10年以上「カトちゃん強化」に協力していただきました。

小倉: 「困った」を形にしようと試みる時「何故(どうして)困っているのか」、「どのように困っているのか」を知る必要があります。加藤さんには聞き慣れない用語やからだの仕組みについて、忍耐強く聞いていただき、それを形にしていく中で、「木」が身近にあることがどんな意味を持っているのかの一部を、生活を通して実感することができたことは、とても貴重な経験でした。加藤さんは実際にお施主さんの暮らしの中に入っていきますよね。勤務している医療従事者にはそれがありません。その方の健康状態を大きく左右する環境の一端も見ずに接します。そこをつないで頂いたことで、私も視野が広がりました。

100年杉のキューブ

加藤: 恐縮です(笑顔)。昔から「杉がイイんだよ」と先輩から言われてきました。桧で儲けたお金でご自宅は杉御殿!とか…そういう先輩をたくさん見てきました。聞いた時は全然実感が無かったけど、こうして【百年杉】と関わり続けてきて、自分でもびっくりなお施主さんの意外な「変化」や「結果」があると、ただただ嬉しくなっちゃうんだけど、そうしたことがとってもたくさんあるから、やっぱり先輩方が言っていたことは本当なんだな~昔の人は凄いな~と思うし、この仕事をしてきてよかったな~って思うところです。

小倉: つまり、それだけお金を掛ける価値があることが知られていたということですね…木のことをよく知っている人たちが杉を選ぶということは、どういう意味があるのでしょうか。これだけたくさんの種類の木がある中で、なぜ「杉」なのかということですけど。

つなぐ

~クリプトメリアジャポニカに隠されたヒミツ!?杉は日本の隠された財産~

正倉院正倉
正倉院正倉

加藤: 杉はイイ。それは実感した。じゃあ、杉の具体的な「ストロングポイント」はどこにあるのか…私もそこを知りたいと強く思いました。それがいろいろな製品を作りたいと思ったきっかけでもあります。ぼくは「杉の有効活用」なる表現が嫌いです。なんだか使い物にならないモノをしょうがないから使ってやってる…って感じに聞こえるんです。

小倉: 私は杉の学名が「クリプトメリアジャポニカ=日本の隠された財産」ということを全く知りませんでした。確かに現代の日本では、杉に良いイメージを持っていない人が多いですよね。花粉症のイメージが強いせいでしょうが、私も以前はそうでした。杉が持つ力や温かさを体感して、初めて、杉の学名通りの「隠された財産」であることを実感することができました。

加藤: 「隠された」財産だからね(笑)お宝だから隠されているんだけど、それにそろそろわたしたちは気付かなければならない。

そしてぼくは杉を知る専門家として、ヒトと杉とを「つなぐ」ことをしたい。杉は昔からわたしたちにとても大切で必要な存在だから、杉の持ち味を探求して、「杉の魅力」をもっと出せる製品を開発したいのです。

小倉: ヒミツを解き明かそう、というわけですね!
加藤さんは10代の頃から、毎日たくさんの種類の木に触れてきたと聞きました。

100年杉のモバイル枕

加藤: はい。木材製品市場に住み込みで修行させていただきました。北は青森から南は九州までの杉(や桧)を毎日担いでいました。そしてのちに北海道庁渡島支所さんに講演で呼ばれて…北海道の杉も見て触れてきました。

小倉: 「かついで」って…木材は「機械を使って降ろす」のではないのですか!?

加藤: はい。フォークリフトはありましたが…「木に同じモノは無い。」「毎週来る製材所さんの木材でも、1本1本すべて…乾燥状態…木あじ…節の大きさや数など…コンディションを確認する。」…という考え方からです。機械の発展よりも基軸…考え方が優先していた時代だったのでしょうね。週に1回せり市(オークション)があるのですが、毎週必ず出品する製材所の同一樹種同一寸法の木材も、毎週毎週手で降ろしてかついで全量検品していました。「なんでリフトで降ろさないんだよ~」って思いながら(笑)。

小倉: それは凄いですね。まさに肌で直接触れる。1本1本担ぎながら、その木の個体差を肌で感じていた、ということですね。加藤さんがとても貴重な存在に思えてきました(笑)。実際に貴重な存在なんですけど。

触れる感覚

加藤: 私はそういう考え方や、やり方をしていた最後の世代だと思います。たぶん江戸時代から同じことが続いていた時代でしょう。スニーカーもダメで白足袋でしたし…軍手してたら怒鳴られて…素手で触れなきゃならん!という時代でした。まぁ確かにそうなんですよね。「触れる感覚」って凄く大事なんです。今から考えてみれば、そういう「最後の時代」でラッキーだったんですよね。

触れる感覚

小倉: そうなんですよね。私も患者さんの皮膚の上から、からだの中の多くの情報を読み取ります。体内の状態って、意外と皮膚上に現れてくるものですから、その情報を元にして、からだの中に変化(反射)を起こしていきます。だから「触れる」ということがどんな意味を持つのか、その重要性についてはよく理解できます。

ヒトも杉も、唯一無二

加藤: 例えば、大工さんが日本の木で、年間4棟の家を建てたとします。すると、10年で40棟分の木を見て触れることになります。あの頃のわたしは数カ月くらいで40棟分の木を見て触れていました。それほど多くの木と触れあってきたことになります。だから、嫌でも杉の個体差を覚えていくんですよ。…しかも全部素手で担いで…(笑)。

触れる感覚

小倉: 見た目が似ていても個体差は大きい。ヒトとまったく同じですね。同じヒトは2人といない。だから唯一無二の存在なんだなぁと実感します。木もヒトも、同じなのですね。すると、今も木材は1本1本検査するんですね。

加藤: いえ、一部の高価な木材はもちろんしますが、残念ながら全体的にしないようになってきています。木材製品市場のお客様である材木店…その先のお客様である工務店さん…そういう流れの中で、「品質へのこだわり」より価格やスピード、木の均一性などが優先されるようになってしまっているということです。言わば「質」の話がほぼない。

小倉: それは残念ですね。でも、以前は内臓を守るバリア的な存在にしか考えられていなかった私たちの皮ふですが、今では研究が進んで、体温調節や情報を伝達する物質を生み出したり、いろいろな刺激に対する感覚のセンサーだったりと、多くの大事な役割を担っていることが分かってきました。触れること=皮膚の受容器としての働きの重要性などが見直されていますから、これからは「素晴らしい杉」も注目されるんじゃないでしょうか。そこで気になるのは、「杉の素晴らしさ」を、「使う人たちが知らない」ということです。

加藤: はい。おっしゃる通りです。
今の木の売り文句って「低温乾燥で…自然乾燥で…」とか、「この木材は含水率が○○%以下で…」というようなものが目立ちますよね。世の中にはいろんな情報が溢れているから、どうしても数字やストーリーにこだわりすぎてしまう。それは理解できるのですが、「体脂肪率○○%の人があなたにピッタリな人よ」…なんておかしいですよね。

小倉: 確かに(笑)求める方が決めることですよね。でも、“ガンスイリツ”って言葉も知らない人が多いのが現実でしょう?だから、「ガンスイリツ○○%!」って見出しされると、あたかもそれがイイことなんだ!と思ってしまうのが素人ってもんですよね。以前の私のことですけど(笑)

加藤: それは、ぼくら木を扱う人間がもっと工夫しなくちゃならないところです。一昔前、杉が当り前のようにあった時代から、急激に世の中が変わった。もちろん、いいところもたくさんあるけれど、置き去りにされてしまったものもある。だからこそ、大切なものを失わないように、今できることをしていこうと思っています。

触れる感覚

小倉: そうですよね。世の中が急速に変わったとしても、わたしたちのからだはそんなに急激には変われない。だから、わたしたちも知ること、気付くことが大切ですよね。「ガンスイリツ=品質ではない」ことは、よく考えれば分かることですよね…。

ピタッ! と、あなたに合った木のコーディネートをいたします!

加藤: 「木を使いたい」と思う人が、どんな品質を求めているのか、その木に対する期待と狙いがあるはずで…その求めているものと、それに見合ったコストも含めたこと、そこがピタッ!っとくるような木のコーディネートをすることが、ぼくが本当にやりたいことです。家を建てるにしても…設計・施工はともかく…「とにかく木は加藤から買うんだ!」って思われたいのです。家に主に使われるスギやヒノキで…。でもそれができないから、今は「いい杉、最高品質の杉」のみをやる、という方法をとっています。でも、そこまでの品質になっていない杉だって、適所があるはずですからね。

小倉: 「ピタッとくるようなコーディネート!」、是非してもらいたいです!本当に木に触れてきた人でなければできないことですし、そういう人に頼めば安心ですし。私も自分の部屋に、ちょっと木を取り入れたいと思う時があります。でも今流行りのDIYをする時間も無いし、センスも無い…買うとどこかで妥協しなければならないし、それで諦めてしまうことが何度かありました。

加藤: そういう方から相談されることはとても多いですしうれしいです。今でも指にとげが刺さりながら作業~加工する、つまり偉そうに言えば…「触れて木と会話する」ことをしているからこそ、自信を持ってコーディネートできると思っています。

木材加工の基本の機械で「手押し」という機械があるのですが、それを使っていると発想が豊かになるというか…使わなきゃ感じられない木の世界を知る領域があるように感じます。「手に伝わってくる感覚でしか知り得ない味わい深さ」とでもいいましょうか・・・それが多くの木に触れてきた経験と相まって…。

小倉: 貴重な機械ですね。加藤さんがその貴重な機械を使って木に触れて会話するように、わたしたちも自分のからだに触れてみると、意外と分かることがたくさんあります。触れることで伝わってくる情報って、私たちが思ってるより多いと思うんです。動物を見ていても、毎日毛繕いや羽の手入れをしていますよね。

加藤: 現在ではこの機械を使っている人も少なくなってしまいました。全て数字を追い求めた結果、大切なものを失いかけている気がします。「木の良さ」を語る人が木の「質の見極め」の眼力に劣っていたり、眼力ある人と組んでいなかったり…木を「買いたい」ヒトはいても「作る」ヒトがいなかったり…。

「手押し」とは、削りながら直角を作るための機械です

小倉: そうですね。からだのことも同じです。私たちは基準をつくるために、どうしても「数字」を求めますよね。だから効果・効能ばかりを追いかけてしまう。当然それが必要な時もあります。

でも、ちょっと考えてみると分かることなんですけど、わたしたちのからだはたくさんの細胞の集合体でできていますよね。その細胞たちが働いてくれているからこそ、成り立っているわけです。多少無理しても直ぐに病気にはなりませんよね。それは細胞たちが様々に作用し合ってバランスを取ってくれているからです。でも、長い間、その細胞たちに負担を掛け続けていたら、当然、働きが弱ったりバランスを崩しやすくなったりしてしまいます。

出典:人体 ミクロの大冒険 NHK出版

「効果」を効率よくもたらすためには、「機能」が必要で、それは細胞たちがやってくれているわけです。消化も解毒も吸収も調節も。
だから、「効果」を求める前に、自分の日常を振り返って、自分の細胞たちに負担をかけてないか、自分は自分の細胞たちの働きを邪魔して、機能を低下させていないか、などを見直すことが必要だと思うんです。

そこが欠けてしまうと、せっかく「効果」のあるものをからだに取り入れても「機能」あってのことですから、「効果」が薄れる、または無くなってしまう、なんてことになりかねません。しかも、「薄れる」とか「無い」ならまだしも、「害」にだって成りえるわけです。

加藤: なるほど。おっしゃる通りだと思います。わたしたちはどうしても意識に上らないことって、あまり考えないで放置してしまいがちですよね。けれども、手遅れになる前に、慌てないで済むように、私たちはもう少し「予防」ってものを意識することが必要なんですね。それでも意識できないところはできないと思うんです。日々の生活に追われてね。

日本人は睡眠障害に陥っている人が多いと言われていますけど、睡眠ってからだを治すためにとっても大切な時間だと思うんです。だからそれはすごく大変なことです。弊社にお越しになる方々も睡眠に難がある方々がほとんどです。杉は人に害になる空気中のものを取り込んで無害にしてくれるたり、浄化していい空気を提供したりしてくれる、とっても頼もしい存在なんです。

だから、【百年杉】が生活の中にあることはとても大切なことだと思って、製品化を続けているというのもあります。

小倉: すごいですよね。以前、【百年杉】を寝室に置いてみたら何か変わるかな?という思いから、多くの方に【百年杉】で作った「スノコマット」で寝ていただき、起きた時の血圧と脈拍を毎日測定してもらうことをしましたよね。その時に、「眠りの深さが違うような気がする」とか、「朝スッキリ目覚める」とかいう意見が多かった。そして、一番多かったのは「いびきが小さくなる、またはなくなる」ということでした。明らかに杉と寝ることで循環が良くなっている。これには驚きました。眠りの「質」を決める大きなポイントである「呼吸」がしやすくなっているのだとしたら凄い!と。【百年杉】と寝ているある高校生が、「杉はイケメンじゃない、超気の合う友達のような存在」と言ったことが面白かった(笑)。つまり、「ドキドキする存在」と「空気のような親友的な存在」ということが言いたかったわけですが、言い当てているな、と思いました。

加藤: 分かりやすいですね(笑)。

小倉: そうした「機能」を「円滑」に行えるように、細胞に、からだに、「協力」すること。それが大事なんだなぁ、ということを、私は杉からも教わりました。

加藤: つまり、からだは会社みたいなもので、そこで働く細胞は社員、その社員が働きやすい環境を作ってあげることが大切で、その先に「効果」があるってことですね。

小倉: その通りですね。自分自身のからだに対してブラック企業にならないようにしないと…。

最後はやっぱりヒトの手

加藤: わたしはたくさんの事を小倉先生に教えていただきましたが、最も大きな分野はやはりご専門である「皮膚科学や感覚器などの触感、神経生理学」という所です。

小倉: 「最後の仕上げは、やっぱりヒトの手なんだよね…」

最後の仕上げは、やっぱりヒトの手

これはドイツから来院されている音楽家がよく言っていた言葉です。わたしたちの皮膚にはじつに多くのセンサーがあります。それらのセンサーは進化の過程でものすごく複雑に形成されて、それぞれの領域の高感度分析機器として機能しているといわれています。だからわたしたちは触ったものを感覚で情報として抽出する能力を持っています。「触れる」→「感覚センサーが情報をキャッチ」→「その情報を神経線維が脊髄を通って脳へ伝達」する。そこではじめてその情報を認識することができます。

出典:ANATOMY NOTE

加藤: わたしたちが健康を考えるとき、内蔵がもっとも重要って思ってしまいますよね。当然、病気に臓器の名前が付いていることが多いからそう思うんでしょうけど、でも、いろいろ知っていくと、内臓は移植できるけど、皮膚って移植できない…1/70億のオリジナルでなければ機能しないし…外界と体内との境界に存在するものすご~く重要な部位なんですよね。

ミクロン

小倉: 内臓は見えないから怖いということもあると思います。「臓器は内蔵、皮膚は外臓」と言われるように、全ての感覚器として、とても重要な働きをしています。とりわけ手は、感覚を感じる最初の入力点である受容器が特に発達しているところで、ひとの脳は手を使うことによって発達したとも言われていますよね。その能力を分かりやすく解説して下さったのは、資生堂リサーチセンター主任研究員の傳田光洋先生です。傳田先生たちの研究グループが、

  1. プラスティック板に10ミクロンピッチの溝を規則正しく刻んだもの
  2. 同じくプラスティック板に30ミクロンの溝を規則正しく刻んだもの
  3. プラスティック板に10ミクロンのものと30ミクロンの溝をランダムに刻んだものの3つのプラスティック板を触ると、人はどのように感じるのか?という実験があります。(1)、(2)の規則正しい板に指先に触っても特に何も感じないのに、(3)のランダムな板では強烈な不快を感じるという結果が報告されています。それほど人の手は敏感に多くの情報を常に感じ取っているということに驚きます。

加藤: ミクロンって普段使わない単位だから、最初は理解するのがとても難しかった。1ミクロン(μ)は0.001㎜(1/1000㎜)だから、ぼくらってすごい感覚を持ってるんですよね。それを3次元で表しているのが「ペンフィールドのホムンクルス」(ロンドン自然史博物館)ですけど、学ぶ前はこういうことを全く知りませんでした。

小倉: あの彫刻を見ればすぐに分かりますが、大きな手や指先はそれだけ脳に多くの情報を送ることが出来るということを表しています。加藤木材さんのイベントで、【百年杉】の木片を置いておくと、みんなずーっと触っている、とうことをよく見掛けます。次の人が触りたくても、なかなか戻ってこない(笑)自分で触っても感じますが、気持ちいいんですよね。

運動野の働き

足も求めてる? ~「スベスベ」と「べとべと」~

裸足の素足での生活

加藤: ぼくは、あの像はちょっと足が小さいようにも感じています。西欧文化では屋内で靴を履く国が多いからでしょうか。靴を履かない日本家屋の木の床では、足の「触感」はとても大きいように感じています。特に【百年杉】、【200年杉】の床から素足が受け取る情報量、素晴らしい触れ心地が脳を駆け巡ることを、ぼくは感じるんですけどね。

小倉: たしかに住文化による違いはあるでしょうね。でも西洋文化圏で育った方々も、当院の【百年杉】の床を心地よいとおっしゃる方は多いです。中には靴下を脱いで、足の裏で杉を触っている方もいらっしゃいますよ(笑)。無意識でしょうが、スベスベ感が気持ちいいんだと思います。ヨーロッパは木の靴の文化もありますから、杉のような柔らかい木ではないかもしれませんが、同じように素足から感じる力はあるのではないかと思っています。現に木靴は今もなお進化しています。

例えば次の写真のように、遊びや芸術という側面もあるのでしょうが、“足が求める”っていうのもあるんじゃないかと思っています。

参考元:Behance
参考元:Behance

それにしても傳田先生の研究にもありましたが1ミクロンは1/1000㎜。自覚できているだけでもそんなに細かい精密機械以上の働きをしている、人のからだってすごいなぁと思います。

加藤: おう!そういう方もいるんですね。どこの国の人でも、木が織りなす自然の触感を、脳は感じているんだなぁ(笑顔)。 実は木の板の木目の凹凸も最小1/1000㎜だと言われています。一見ツルツルでも、夏目と冬目の境には微細な凹凸がありますよね。あれが約1ミクロン!ぼくは子どもたちとのワークショップでこの話をよくします。「わたしたちには1/1000㎜の凹凸を識別できる能力がある!けれどもその能力を使わずに…気づかずにテカテカツルツルのビニルの床や机に触れています。でも木に触れるとわたしたちの指先の1/1000㎜の能力に気づけて…能力全開!

だから…触ってて気持ちいいのかもね!」…って言っています(笑顔)。

小倉: 加藤さんも子どもたちも、同じ目の輝きになっているところが想像できます(笑顔)。木に触れていると気持ちいいのと同じように、ビニルに触れ続けていると、不快なんじゃないでしょうか。ヒトは“不感蒸散”している動物です。見えないし感じないけれど、水分を毛穴から常に放出しています。

その汗を吸ってくれない材質のものに触れ続けているってとっても不快!ですよね…。

加藤: 確かに気持ち悪いっすね…。

小倉: 不快だけじゃなくて、好ましくない菌が足に引っ越してきたり、体温調節がしづらくなったら嫌ですよね…空間だけじゃなく、ヒトの湿気も吸って呼吸してくれる素材の方が断然いいわけです。

加藤: 住まわれたくないっすね…すると杉の湿気を吸ってくれる能力の高さを考えると、昔から寝室は杉!って言われていた理由がよく分かりますね。寝ている間は汗をたくさんかくし…。

小倉: そうですね。自覚できているだけで1/1000㎜。自覚できていない、無自覚で働いているセンサーを含めたら物凄い情報量ですよね。スノコマットにしただけで「眠りが深くなる」という感想が多かったのは、そういうことも関係しているのかもしれません。快適な環境って、ぐっすり眠れますものね。

だからそういう「皮膚とわたしたち」のような部分を、杉を通して広めている加藤木材さんは他には無い、とても面白い存在だと思いますし、とても有り難い存在だと思います。

加藤: 傳田先生の本や小倉先生のお話を聞いていると、この皮膚の重要性と言いますか…皮膚からの情報がいかに脳に影響を与えているか、とても大切にしなければならない関係だということを実感します。

200年杉のタマゴ
200年杉のタマゴ

実は小倉先生にもご指導いただいた「200年杉のタマゴ」は様々な方々に触れていただいているのですが、その表面の微細な凹凸は、お年を召された方は凹凸に気づかない方が多い印象があります。そしてご高齢でも太鼓がご趣味の方などは、日々木に触れているからでしょうか…鋭敏な指先で木目の微細な凹凸に気づく方がほとんどだったり…。さらには日々の食事に気をつけていても指先を使わないライフスタイルの方々は、感じづらいような印象を持っています。

小倉: そうですね。受容器である皮膚と脳の神経細胞は、お互いに刺激し合っています。ですから、指先を使っている方は感受性があり、年齢を重ねても衰えるスピードが緩やかなように感じます。生活の質を考えた時、これはとても重要なことだと思います。

皮ふの感受性は反射に影響します。

例えば誤ってトゲなど鋭角なものを指に刺してしまった時に「痛い!」と感じるより速く手を引くという経験をされた方は多いとは思います。これは皮膚の感覚を脳に伝える経路である神経の末端より表面にある表皮がその刺激を受けて電気信号が脳に達する前の段階でおこる「反射」によるものです。このような「反射」がおこらないと思われている無自覚のものを含めたら普段触れているもの全ての意識・無意識の膨大な情報が常に脳へ伝えられて機能しています。

出典:解剖生理をおもしろく学ぶ;医学芸術新社

最近では、認知症と皮膚の関連が研究され、「皮膚の感受性を高めるということは脳の細胞の活性化に繋がる」ということも分かってきました。

加藤: おお!そうですか!認知症、これからの高齢化社会には重要な問題ですね。
私は【百年杉】を専門的に取り扱うようになってから、いろいろなことを感じるようになった気がします。もちろん、学んでいろいろなことを知ったということもあるのでしょうが、作業場や現場で働いていて、健康になっていってる感じがするんです。正確に言うと、健康っていうより、いろんなからだの部分が楽になってるという感じ。

小倉: 加藤木材さんの作業場は素敵な空間ですよね。私の仕事は、主に「はり」などの機械的刺激や、お灸や温熱刺激など、その他いろいろな物理的な刺激をからだに加えることで、皮膚を介して脳に影響を与え、その反射を利用して症状の改善を図ろうという物理療法の一つです。

医療現場での科学的学術的な側面と、伝統医学である臨床統計的、口伝的な考え方と、両方の要素を含んでいます。患者さんの皮膚上に現れた変化を捉えるために、毎日とても神経を使います。当院の床を【百年杉】にしてから、加藤さんのおっしゃるように「楽になっている」という感じがあります。「香りが作る空間」や「触れた感じ」の他に、自然な流れでリアルタイムで湿度調節してくれるので、その効果も大きいと思います。それによって、いろいろな緊張が緩和されるということもあるでしょう。そうした日々の小さな積み重ねが、「楽」という感覚をもたらしていると感じています。

加藤: 床は直接触れ続ける唯一の建築素材ですからね。ぼくはこんな乾いた時代だからこそ、いわゆるドキドキするイケメンじゃないけど(笑)空気のような、大切な存在である【百年杉】を、生活の身近なところに置くことで、人生が変わると真剣に思っています。“幸せ”の到達点が変わると信じています。赤ちゃんからおばあちゃんまでみーんなね。

有限会社 加藤木材
〒350-1312 埼玉県狭山市堀兼2348-1
TEL 04-2957-9444(月~土 9:00~17:00)