『百年杉』の専門会社 加藤木材

ディエゴが召された。
50歳以上60歳未満の男性には、彼は特別な男であるはずだ。
わたしの子ども時代の好みはジーコ派であったが
マラドーナの個性と左足は強烈だった。

彼の60年の人生を「光と影」と、とらえる、つまらない読み物も多いが
わたしからすれば、まったくの「光のみの人生」である。だから書いておく。

貧困街に生まれて、生きながら神のような存在になっても変わらずに
善悪を超えて、一度もガマンや従属なく生き続けて
コカインとアルコールで気持ち良くなって
キューバには私生児も複数いるらしいし…

「できなくなっていく…老い」を感じずに60歳で召されるなんて

最高のこれ以上ない人生である。「ディエゴよかったよなぁ!」

後にマリノスで活躍するディアスと共に
彼はユース時代から凄かったのだが、転機はスペインW杯である。
今のメッシはルールによって守られているが
当時はもっとルールは緩くラフプレイも多かった。

大昔のペレも酷い目にあったようだが
マラドーナもラフプレイによって、蹴っ飛ばされて「止められて」いた。
そんなことが続いたから、彼はブラジル戦で「飛び蹴り」を食らわして退場。
チームもジーコの活躍などによってアルゼンチンはボロ負けしている。
ちなみにそのアルゼンチンをチンチンにやっつけた
史上最強の呼び声高かった「黄金の中盤」のブラジルも
イタリアのロッシ1人にやられてしまう。そんな大会であった。

しかし、のちのイングランドのベッカムのように退場を非難されずに
アルゼンチンという国は彼を温かく迎えて彼は4年後に神になる。
マラドーナがイングランドに生まれていては神になれなかったであろう。

4年後のあのマラドーナのための大会となったメキシコW杯で彼は頂点を極める。
よく映像で見られる「神の手+5人抜き」である。

しかし、この5人抜きも相手はフェアプレイのイングランドである。
他チームだったらどうだったろう…
日韓W杯でも、イングランドはベッカムのお行儀のよいディフェンスにて
ロナウジーニョの突破を許しリバウドに仕留められている。
イングランドというチームは永遠に引き立て役のチームだもんね。
やはり勝つときはそんなものであろう。

この大会の「ブラジルvsフランス」は歴史に残る名勝負でした。

そこで勝ったプラティニ率いるフランスも、キーパー力の差で西ドイツに屈し
アルゼンチンはブラジル…フランスといった華麗な強者とは戦わずに
強くはないが、しぶとい西ドイツに勝って頂点を極めた。
前述のイングランドという対戦相手もそうだが
勝つときにはそういう運も必要なのであろう。

また、この勝利は軍事独裁政権下での自国開催W杯優勝という
国際社会からの呪縛を解く、アルゼンチンという国の開放でもあったのだ。
単なる世界制覇では無い。軍事政権下での陰惨な優勝を消し去ってくれたから
彼はアルゼンチンの神になったのだ。

そして彼はイタリアのナポリに移籍して
弱小チームを優勝チームに引き上げてしまう。
ブラジルのカレッカもチームメイトだったね。
だいたいフットボールチームで
「10番が永久欠番」なんてチームも、ここくらいのものであろう。

金持ちのミラノなどの北。貧しい南部のナポリ…
イタリア南部はマフィアの地域だからね。
おそらくナポリで彼はコカインという高級麻薬を覚えて
非合法組織の人たちともつながっていったのでしょうね。
同じ非合法でも、マフィアである。これ以上の王道も無いよね。

そして次のイタリアW杯でマラドーナのアルゼンチンは
地元のイタリアとトーナメントで対戦する。
その際に彼は、イタリアの南北問題を持ち出して
国民の分断をあおって、アルゼンチン有利に画策を図るのだ。
結果、アルゼンチンは辛勝するのだが
以降、セリエAの試合ではどこに言っても彼はブーイングの対象になって
彼の居場所はセリエAには無くなっていくことになる。

彼はいつでもまったくこどもだから…
「ひどいことをやられたからやり返して退場になり」
「手でゴールして、“神の手”を名乗り」
「面前のアルゼンチン勝利しか考えずに、自分がセリエAのプレイヤーでああることも忘れて、居場所を無くしていく」のである。
彼は狡猾とは真逆のまま変わらずに生き続けていく。

アルゼンチンではディエゴのタトゥーを見せれば
強盗に拘束されても解放されると聞きます。

彼は引退後も富裕層…資本家が牛耳る世界を批判し続けて
貧困街からのボカジュニアーズの立志スーパースターのままでいました。
左翼思想を放言する危険思想者と見られていたこともあったでしょうね。

しかし、そんなことを言う人間は無数にいるのに
実際にキューバのカストロの庇護のもと
麻薬・アルコール依存症の治療として長期滞在できる人間はディエゴしかいない。

ほとんどの人間はカストロに会うことさえもかなわないのにね。
マフィアにカストロだからね。誰も両立できない人生であるはずである。

彼の特異性のひとつはフットボールという世界一普及しているスポーツの神であったことがある。野球はたくさんの道具が必要だし、水泳の50mプールがある国も世界では50か国もあるまい。そういったお金持ちの国しかできないスポーツや積雪が必須のスポーツのチャンピオンではなく、ボールひとつで、どこでもできるスポーツの神だから成せたものであろう。陸上も世界共通のスポーツなのだが、ゲーム中のファンタジーさに欠けちゃうものね。

そして、フットボールというスポーツが「強烈な“個”の時代」という古き良き時代だったからこそアルゼンチンの神から世界の神になれたのである。フットボールの今はゲーゲンプレスに代表されるように、点取り屋の前線の選手でさえもアクティブかつシステマティックに「さぼらずに」陸上選手のように、忠実な猟犬のように…ボールを奪うべく、走り続ける能力が要求されている。かつてマラドーナと戦ったブラジルのソクラテスは喫煙者だったんだよ。テクニックこそがすべてのあのころとはまったく違う戦法なのである。

イタリアW杯のマラドーナによるブラジルを葬り去った
必殺のカニージャへのスルーパスのように、
90分間ほぼ何もしないで、さぼっていても「やるときはやる」が
かつては許されていた時代だったのである。ボロクソにブラジルに打たれ続けたサンドバック状態からのたった1発の魔法のようなスルーパスであった。

その昔は大金持ちの貴族は優秀なサラブレッドの所有によって
その存在を際立たせていたものだが、いまや世界の富豪たちはフットボールクラブを買い漁り、そこでおこなわれているフットボールは「チームに従属して、さぼらずに走り続ける選手」たちであるのだから、今やフットボール選手もかつての馬の役割を果たさなければならない立場なのである。

生前のソクラテスも言っていたが
フットボールのルールを変えて、人数を1~2人減らすようなことをして
スペースができれば、以前のようなファンタスティックな技術の“個”が光る、美しいフットボールを取り戻せると提言していたが

おそらくフットボールが、かつての輝きを取り戻すにはそれくらいのルール変更が必要であろう。最近ではやはりアルゼンチンのリケルメあたりまで巻き戻さなければ、いわゆるマラドーナやジーコやプラティニ…クライフのような“王様”のプレイヤーは存在しないでしょう。現代フットボールはアスリート能力至上の忠実な猟犬プレイヤーのスポーツになってしまった。

彼が神たる所以はそんなところであろう。

もはやフットボールに“輝く個”の時代も来ないし
カストロのようなイデオロギー界の“輝く個”も現れないし
世界は小さくなって、W杯のみが全てのような情報量でも無いはずである。

ディエゴは不世出のフットボール界から創出された神である。
おそらく以降、人類からは永遠にでてこないのがディエゴなのだ。

ディエゴの一生は「光と影」などではない。
個がここまで“素のままの個”であり続けても、受け入れられ続けた。
もう2度と来ない、光まばゆい“個の歴史”だと思うものである。

「ディエゴ、あっちでもそのままでいてね。」

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