『百年杉』の専門会社 加藤木材

結果として、ぼくは何も千葉県のお役に立てませんでした。

天気予報を思い出して欲しい。
関東の気温が画面に映るけど、「水戸」の気温は相対的にかなり低い。
今回の災害で折れに折れてしまった山武杉は
千葉県の北の方…茨城に近いあたりの気候で育つことを好適とする遺伝子を有する杉種である。

そんな山武杉を大規模に温暖な南房総地区にも植林しました。
同一県内ですが、環境要因が大きく違います。
そしてこれらの植林はまったくの失敗であったことが林材業者の中では知られていて
「溝腐れ病」とも言われますが
ようは樹内がガン化したような木になってしまったのですね。
それらの杉が今回の台風で倒れてしまって
復旧を遅らせてしまっている。

当時のメモ帳を読むと…
「南房総市の民有林の88%が杉」2012年4月25日市職員との懇談。
と記載されています。

その頃、フィールドワークをしていたら
それこそ誰もが知っている有名大学の名前も聞きました。

「公民館に国の役人と東●大の先生が来て、杉(山武杉)を植えろと言う…あんなとこに杉を植えたって育つわけないだろ…とも言い合ってたんだけど…まぁ偉い先生方が言うんだから、いんだべさ。」という形で皆、国策に従いました。…という感じ。

ものの40年~50年前までのこの国は
山…植林は官民一体どころか官民学一体での「利権」だったのでしょうかね。

この房総の先端部を中心とした見渡す限りの膨大な量の
建築の使い物にならない杉をどうする?

当時わたしは森とヒトをつなぐべく
非営利団体「適材適所の会」の代表をしていましたので
(※適材適所の会は、2019年2月に解散しました)
この杉はプランターにするくらいしかないと考えて
これらの杉を、伐採してプランターにして
かわりに保水率が高く、値を幅広く張る広葉樹にする
「杉の森→どんぐりの木の森」という「すぎぐり計画」を立案。

そして膨大なプランターの出口の為に
「杉の森→落ち葉がなる森」によるフルボ酸鉄の河川を通しての海への流入による
魚介類への好影響を訴えて(訴えなければ誰も知らない)
漁業関係者の全面的賛同を突破口に教育や産業までも巻き込んでいく作戦を考えました。

房総半島は三方は海であって
しかも渓流魚がいない(=水温が高い)低い山ばかりですので
「すぎぐり計画」の効果がでて魚介類への好影響がでるのも
相当早い確信があったからです。

そしてまず、県知事と南房総市の「知事(市長)への手紙」制度を利用して
「すぎぐり計画」を行政に知ってもらい…

次に(財)日本釣振興会の実務的トップの専務理事へのプレゼンまでは
いったものの…その過程における紹介者に「漁業関係者に理解してもらって、釣り人にプランターを買ってもらう…プランターを薦めてもらう…」というストーリーは「あまりにも話が高尚過ぎて無理だろう、游漁船は今日、魚さえ釣れればいいと考えているし、森と魚の未来の関係なんて誰も興味を示さない。」と言われたことが思い出されます。

専務理事さんには、ファミリーフィッシンングを「釣果と楽しさ」だけではなく、「お魚の“いのち”をいただくことの体感。」「海の災害への対応力…衣服を着ての“泳ぎ”の練習」などを提案。それらの実施に当たっては、わたしたちは力になれますよ…とお話しさせていただいたのだが、紹介者の言う通り、これらの話が進む事はありませんでした。
その場では「素晴らしい話だ。」と聞いていただいた、当時の専務理事さんも、もう定年退職されている。

出口のもう一つとしては浦安の夢の国にもアタックしました。
杉プランターを夢の国ブランドで販売していって
地元の森の質が変わっていって、海の多様性が回復していくストーリー。
それらの地域・社会貢献の全ての手柄は御社にもたらされるのです。

しかし、返事はやわらかくノー。
「自然保護のご活動恐れ入りますが…」の文書によるお返事を
ちゃんといただいたのが思い出されます。

あとから広告関係のヒトにご忠言いただいたのだが
「夢の国は場内から富士山さえ見えないように造られている。あそこは夢の国であって、日本ではない…という演出なのです。ましてや地元の千葉の生態系を…なんて、あのヒトたちが興味を示す訳がありませんよ。」

なるほどね。

あれだけ大量の「風折れ」が危惧される病気の杉の森が放置されている事に関しては
「風折れ」のリスクは
残念ながら木々の成長と共に増加するだろうからと考えての
「すぎぐり計画」だったのだが、残念ながらわたしは挫折しました。

地元の中核メンバーもわたしの意を受けて
動いてくれたのですが

やはりそれは急に10年~20年分の「情報」を一気に得ての動きのようになってしまって、
結果として、地元のヒトたちが、「このままではまずい」という危機感を共有しながら
もがいて議論して、勉強して…という道程を踏んでこなかったので
いくら遠くに住むわたしたちが「正しい」と思われることを言い続けても
なかなか種火は灯らなかった。

まったくのわたしの力不足でした。

今回の停電復旧の大きな妨げとなった杉の風折れについて
行政の責任を問うて話を終えるのは簡単なのだが
ここではもう少しちゃんと掘り下げてみたい。

「なぜ?」の原因は、まず国策。
農林行政の拡大造林政策は必要だったのですが
植林が手段ではなく目的になっていって誤った。
手段→目的は、日本人は永遠に繰り返すであろう…定番である。

そして苗木の選定。同じ杉でも雪の降らない地域の遺伝子を有する杉を多雪の地域に植えると全部「雪折れ」をおこしますからね。苗木選定は重要。
それなのに、大学の先生方までが一緒になって、業者が売りたい苗木だったのかは不明もやらかしてしまった。

現在生きておられれば90歳以上であろう
この方々の罪を問うのであれば、それもよかろう。
しかし強調したいのは、罪を問うのは現在の官民学の方々ではない。
もはや、ほとんど亡くなったであろう官民学の先輩方のはずである。

使い物にならないホウレンソウの種を売れば、ものの数か月で非難ごうごうなのでしょうがね。木はね…超保守的じゃないとね。

そして次に林材業界人。
その道のプロでありながら…「知っていた」のに「見て見ぬふりをしてきた」ヒトたち。

千葉県の杉の溝腐れ病のことを一般のヒトが知っていたとも思えないので
やはり傍観者としてのプロの道義的責任はあるように思う。
それに付随して、やはり知っていたのであろう…県や自治体の担当職員さん。

しかし、プロや行政の方々の肩を持つわけではないが
わたしも挫折したように
プロや行政の方々がいくらがんばっても「すぎぐり計画」は
成し得なかったように思うし
もし?森の質の改善についての公金を大規模に投入する計画があったとしても
賛意は得られなかったように思うのだ。

わたしの挫折の「言い訳」で記したように
わたしたち市民側の…目先の利益のみしか思考できないという
わたしたちの思考力に奥行きも深さも足りないことが
一番の問題であるように思うのである。

「転ばぬ先の杖」、「備えあれば憂いなし」

そんな言葉は、もう死んでしまっていて
「困ってから、すぐにググって問題解決!」

というわたしたちの思考と行動では
50年~100年先の恩恵までくださる木々や森との関係性において
なかなか良い関係性は作れないのである。

やはり悪いのはいつも木ではなく、わたしたちなのである。

有限会社 加藤木材
〒350-1312 埼玉県狭山市堀兼2348-1
TEL 04-2957-9444(月~土 9:00~17:00)